昭和の二刀流ビルマに死す―天覧試合の花形 藤本薫の生涯 (光人社NF文庫)

昭和の二刀流ビルマに死す―天覧試合の花形 藤本薫の生涯 (光人社NF文庫)の詳細

まず言っておきたいのはこの本は「剣道」の本であること。もっと正確に言うなら、一人の偉大な剣士、藤本薫さんの短い一生を追った作品である。記述の過程で当然一般の歴史的な描写もあるが、基本的に剣道家向けの本だと思う。藤本さんは現代剣道において二刀を遣う選士として、おそらく最も大きな実績を上げたと思われるが、意外と剣道家の中では知られていない。私も知らなかった。そんな剣道史にうもれかけていた伝説の二刀遣いを現代に引き上げた意義のある作品と言える。ルールとして認められているのに、今では二刀流というと邪剣あつかいされる風潮があるが、往時は二刀が大変流行っており、自由闊達な技が個々人で試されて、今よりよほど進取な時代だったことが面白い。そういったかつての剣道界の雰囲気と同時に、現代にも通ずる著者の問題提起は痛快ですらある。著者は二段を取得しているそうだが、剣道に関してはズブの素人と自認している。だからこそ少し離れた位置で、個人史から剣道一般の問題にまで敷衍できているのだと思う。剣道家の教養としてお勧めしたい。