カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5診断基準の臨床への展開 第3版

カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5診断基準の臨床への展開 第3版の詳細

この書物、サブタイトルが「DSM-5診断基準の臨床への展開」などとなっているために、診断基準をただうまく記憶学習するために集まる患者にとって無能で有害な医師予備軍の読者が大半のような気がする。そうした人は「薬剤が誘導する運動障害」の章を読み飛ばしているだろうと思います。ぜひ、悩みを抱えて精神医療分野の医療機関をおとずれる人々が最悪の事態に追い詰められないようにするためにも、この章を読む読者がここに来るようにと考える。そうでないなら、この書物の価値はない。１６００頁の書物全体としての評価は別として注目する部分がある。「薬物誘発性の(身体)運動障害」について２００頁にも及ぶ記述があることだ。薬物とは当然、医師が処方する向精神剤。抗不安剤などを含む薬剤のことであるし、併用処方に絡む問題なども記述されている。先に述べた臨床精神医学の教科書とも言える「現代臨床精神医学」（約５５０頁）や「標準精神医学」(約５００頁)では、そうした記述は１０頁にもならないし、著者たちは肩書上「医師」や「医学者」であり「薬理学者」ではない。医師たちは、医療の専門家と称しながらも、自分が処方して患者自身に致命的な影響も与える可能性がある、こうした薬の作用そのものに関する内容は書けないのだろう。あるいは関心がないのだろうか。しかし、「カプラン臨床精神医学」の「薬物誘発性の(身体)運動障害」では先の書物全体の半分にも及ぶ頁を割いて、医師たちが処方する向精神剤などが患者に及ぼす影響・障害について書かれているのだ。そこには重要な指摘と内容がある。「精神医療の治療のために(向精神剤などの)薬物によって脳内の化学を変えようとする臨床医は、意図しない薬理学的変化が起こりうることについてもよく知っておくべきである。薬物の有害作用を既存の疾患の症状と区別し、薬物が原因となる作用（の場合は）・・」とある。つまり医師自身が、自分で処方した薬剤の影響によって生まれている症状・障害と当該の患者自身がもともと持っていたと推定される病症との区別ができる能力が必要である。薬理学の基本を大学でまともに学んだこともなく、製薬会社の営業販売推進員（MR）から薬の影響を教えてもらっているような精神系の医師にそれが可能だろうか。「処方した薬剤によって生まれている症状・障害」と「当該の患者自身がもともと持っていたと推定される病症」との区別。この区別ができないなら、医師の治療行為が原因となって患者に与えている病症を「治療」するという名目で更に悲惨な状況に追い込む薬剤投与が追加、悪化させられる可能性が増える。そして一生復帰できない状況へと、更には自殺に追い込むような事態になるだろう。この区別ができない医師が治療薬の処方箋を書く権限を握っている状況の問題が大きい。そんな医師たちが待っている医療機関に、その現実を知らない悩みを抱えた多くの人間たちを呼び寄せている現在の状況はどうだろうか。その意味で、「臨床精神医療」分野で薬剤処方する能力を考えるなら「医師免許」を持っていることは役に立たず、むしろ身体内の薬理学の基本を知っている人間たちこそ、そういう能力の可能性があるし、そうでない人間からは処方箋を書く権限をとり上げるべきではないだろうか。そして「薬剤の効能と副作用の違い」「余分な薬剤投与の危険性」を理解できる人間が「臨床」の場で真剣に学習し「診断」「治療」の場に立つべきだろう。少なくとも「薬剤の身体への影響」及びその理解については自分の〔専門外〕だと思っている人間は「精神医療の場」に立つべきではないだろう。しかも〔専門外〕であるにもかかわらず、多剤大量の向精神剤を処方している「精神医療の現状」は信じがたいと思わざるを得ない。向精神剤を処方している医師たちは自分たちを何者だと理解しているのだろうか。ただこの書物を読む大半の読者は、DSMなどの病症分類基準を理解して診断できるような医師になることが目的で、診断に伴う向精神剤や抗安定剤による有害な影響で悲惨な状況に追い込まれる可能性がある患者のことへの視点も持っていない医師になるしかないような人が多いようだ。つまり、この章の価値も理解できないようだ。その意味で☆は最初は二つにしたが、「治療の失敗」の節でも、精神科医師群が犯しやすい医療ミスの理解を深めるような記述があり☆を五つに変更した。